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EVENT REPORT

イベントレポート

髙嶋政伸 インティマシーコーディネーター 浅田智穂さんとの対談<後編>

髙嶋政伸が、自身が主催する「リーディングセッションVol.17」を、2024年6月に開催。この公演にご参加いただくインティマシーコーディネーターの浅田智穂さんとの対談が実現しました。

“インティマシーコーディネーター”とは、センシティブシーンにおいて俳優の安全を守り、監督の演出意図を最大限に実現できるようにサポートするスタッフのことで、昨年出演したNHKドラマ10「大奥 Season2」にて初めて浅田さんとご一緒しました。
また、新潮社「波」で連載中のエッセイ『おつむの良い子は長居しない』第12回では、“インティマシーコーディネーター”をテーマに、ドラマ現場でのエピソードを記事として執筆しています。

以下、対談記事の後編となります。
<前編記事はこちら

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髙嶋:さて、今回のリーディングセッションなんですが、朗読は「声」が表現の殆どを占めます。ですから、暴力描写がある作品を朗読する時は、やっぱり、言葉の暴力が、下手するとフィクションを悪い意味で逸脱してしまうんじゃないか、と感じています。1995年から、リーディングセッションはジャズクラブを主な活動の「場」にしている為、ステージと客席が一体化してまして、勿論、三密は避けますが、役者は、椅子に座って朗読するので、同じ目線のお客様に囲まれる形で他者を演じますし、お客様にとっては、自分達が座っている客席に役者がいる、という形での観劇になるわけで。その関係性で、役者は、かつて受けた暴力の記憶を吐露したり、殺人鬼に追われたり、とかのシーンを朗読する。
今回の朗読会は、夏の名画座とか、テレビの深夜番組のホラー映画を、ポップコーン食べながら観る様な感覚で楽しんで いただけたらと思うのですが、どうなんでしょうか…。

浅田:この作品が演じられる、読まれる環境というのももちろん大事ですけれど、これはお客様の体験としては通常の舞台や映画よりも、より濃厚で刺激的なものになる可能性があります。それは、お客様のイマジネーションに任せる部分が大きいからです。今回、R16で指定されてるんですが、それこそ本当に「つらくなったらいつでも退場できること」を事前にアナウンスして、そういった行為が大丈夫ですよっていうことをお伝えしておくと、お客さんは安心かと思います。今回やっぱりその、ソロキャンプのポスターを見たり、R16と聞くと、何かそういう恐怖的なものがあるんだろうと思ってお客さんはいらっしゃると思います。今回の内容が、何か、どこかで、お客様の過去の経験と結びついて、トラウマを引き起こしてしまうようなことがゼロではないと思うんですよね。そういう時にも安心して退出できるような環境とか、そういうのはやっぱり大事だなと思います。

髙嶋:確かに、ご気分を害されたまま退出できず、観続けるしかなかったお客様もおられたかもしれないですね、今、リーディングセッションの歴史を振り返ってみると。

浅田:だとしたらもう、やはり、一言、気分が悪くなったら、いつでも退出できる、と、いうことをお伝えすればお客様は安心すると思うんですね。

髙嶋:僕も今お聞きしてちょっと安心できました、自由に退出して結構ですっていう、事前のアナウンスですね。それ、必要ですね。

浅田:映画館で退出することはそんなに難しくないですし、家で映画やテレビを見ている時も、いつでも止められますよね。でも、ある意味、舞台や朗読ってやっぱり退出しづらいと思うんです。ライブ感というか、その雰囲気を壊してしまう気がして。
なので、そこは当日の雰囲気というのもあると思うんですけど、一言、気分が悪くなられたりしたら、ご自由に退出してくださいってお伝えすることで、多分お客様はちょっとほっとすると思います。あとは会場の照明とか、舞台と客席の距離感で、このストーリーを演じる役者さんが、目の前にいる人とたまたま目が合ってしまった時に、その目が、常に物語の中で登場人物をじっと見ている暴漢とかに見えてしまわないか、とか、そういうところもやっぱり気にしないといけない。
撮影だと、そもそもそういう環境はないじゃないですか、部外者と目が合う環境ってまずない。あと舞台も基本的に客席と舞台と分かれているので。もちろん目が合うことはあっても、その空間がやっぱり分かれています。でも今回のリーディングセッションは、客席と舞台の空間が同じということで、何か圧が、圧というか、何か精神的負担を役者が感じる可能性はゼロじゃないなと思っていて。

髙嶋:本番は、すごく近くから皆さん観てるわけですからね。

浅田:その作り上げていた、その舞台上の親密な関係が、誰かと目が会うことで、今度その2人の関係になってしまう可能性なども怖いなと思います。
なので、やっぱり、顔を上げた時に、あそこを見れば、基本、お客様と目が合わないとか、そういう場所を作っておくのも。

髙嶋:なるほど、目線の場所ですね。

浅田:今回のサイズの箱でこの距離感で、どうしてもやっぱり影響はゼロじゃないと思うんですよね。それが面白い部分もあると思うんです。
それがライブ感であったり臨場感という。でも、台本とはまた別の意味の、この朗読劇を行う空間の上で考えなきゃいけないことですよね。それは撮影空間と同じで、安全にしたいなと思います。

髙嶋:主催者として、出演してくださる役者さんも、安心して演技に集中してもらえるのが、1番ですから。

浅田:そうですね。私も台本を読んだときに凄く怖かったのと、予想外の展開だったので。

髙嶋:今回、コーディネーターとして、アドバイスしてくださる事を整理させていただきますと、まず、事前のアナウンスとして、いつでも退場できますよっていうこと、あと目線ですね、なるべくお客様と合わないようにする。例えば会場にある柱に、小さな黒いシールを貼って、役者はここを見る、とか。そういうようなことから、まず始めていく事ですよね。

浅田:そうですね。今回は朗読中、役者さんは、演じる上で、虚構と現実の境目を行ったり来たりすると思うんですが、それを演じる上で、何か困難なことがあったとき「止まっていい」っていう、選択肢を与えてあげるっていうのもちょっと大切かなと思います。
何かこう、自分の中でちょっと落ち着かないと、次のセリフに行けないっていうこともありえると思います。共演者とは隣同士に座っていて、目を合わせるとこも触れることもないという状況では、自分だけの世界になってしまう可能性もあります。今回は、動きもない、セットもない、小道具もない、そのような状況で、演じることを続けることは、ある意味逃げ場がないと思うんです。台本上ではポンポンといくようになっているセリフでも、なかなかそうもいかない感情になってしまうこともあるかもしれません。必要以上に、あれ?どうしちゃったの?って思うぐらいの間だとしても、それは役者同士、それが許されているとかそういうことは大切かなと思います。

髙嶋:止まって、沈黙になってしまう時間って、朗読会という「声」の表現の場だと、例え、1分の沈黙だとしても、凄まじい感じになります。
それに耐えられずに、気分が悪くなる方もおられると思いますし、役者側も、僕も含めてパニックになる可能性もありますね。でも、役者同士だけでも、しっかりと、その時間があってもいいんだよ、と話し合っていれば、役者もお客様も雰囲気として、安心できるかもしれませんし、逆に、上手くいけば、観る側にとっても演る側にとっても、滅多に味わえない、良い意味でのスリリングな時間になったりするかもしれないですね。

浅田:はい、そういうことが許されているっていうこと演出上で許されていることが、みんなの負担を減らして、役者さんも、お芝居をすることに集中できて、お客様も演出だな、として楽しめる。
あとは、自分の間でお芝居していいんだっていうことって、すごく、いろんな心配事が減っていくと思うので、そういった環境と、それが本当に安心感に繋がると思います。

髙嶋:その辺ですよね。役者も存分に実力を発揮でき、お客様も、暴力を伴うホラー作品の観劇を安心して楽しめる流れをつくれるのは。

浅田:そうですね、だからちっちゃいことですけど、テクニックとして目を合わさないとか、目を合わせるんだったらもう、1人ではなくて、たくさんの人の顔を見るとか、そうしないと役者さんもやりづらくなってしまうと思いますし、お客様も単純に楽しめなくなってしまう。

髙嶋:それは、避けたいですね。

浅田:あとは演出で、そもそも何か接触したりっていうことがないので、逆にその言葉の暴力がどこまで役者と観客に刺さってしまうかっていうとこだと思うんですよね。それが、皆さんが全然大丈夫なタイプなのかその辺もちょっと、はい。

髙嶋:僕は、今回の創作の元になった、女性ソロキャンパーが見知らぬ男に暴行されたニュースを見て、実際にこんな事件が起きるのか、こんな事をする人間がいるのかと、恐怖を感じました。それで、小説を書こうと思って、色々調べたんですが、人間って賢くなるのって多分、脳の容量に限りがあると思うんですが、愚かになるのって、多分無限になれるんだなっていうのを、そういう事件を起こした人を研究すると見えてくる んですよね。
ですから、どっかに僕は「人類への根源的な嫌悪感」みたいなのがあるのかもしれない、と思う時がありまして。だから、小説を書く時は一貫して「善人にも災難は降りかかる」というテーマに行き着いてしまうんです。
どんなに明るい中でも絶対に暗いものがあるはずだと、それをなんとか、見つけようとするんだと。ちょっと、脱線しましたね。

浅田:いえ(笑)

髙嶋:だから今回も、僕の言うセリフとかも、人間って、こんなに悪趣味で、下劣な言葉を言うんだ、みたいなところは出せればいいなと思うんです。思うんですが、しかし、いざ、リーディングセッションという「場」で、実際にやったら、どうなるのか不安がありました。でも先程からお聞きした演出の中での活かし方とかもだんだんわかってきまして、それでやれるんじゃないかなと、おかげさまで安心してきました。
ありがとうございます。改めまして、今回、よろしくお願いします。

浅田:はい、よろしくお願いします。とっても楽しみです。

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